インドネシア コーヒー輸出の見えない壁


2012.12.28

ちょうど一週間前の日経新聞(神奈川県の欄)で面白い記事を見つけました。横浜ライト工業という会社です。

 

ビルなどを建設する際には地盤を固めるために大きな「杭」を打つ工程があるそうです。杭のサイズは直径2メートル程度、長さ数十メートル。杭を打つのは比較的問題が無いようですが、難問は「杭を抜くとき」です。数十年後ビルが取り壊される際、もしくは既に打った杭を何らかの理由で抜く必要がある場合、「杭を抜く」という作業は困難を極めるとのこと。

 

横浜ライト工業では杭の周りの土を水で溶かしながら杭を抜いてゆくそうで、これが出来る技を持つのはここのみ。ほかの杭抜き企業は杭を爆破して取り除く工程を採用しているため騒音問題などが発生してしまい、どうしても杭抜きといえば横浜ライト工業という位置付けになるようです。

 

つまり「杭抜き」のマーケットでは横浜ライト工業が独占的な地位を占めていることになりますが、それはとりもなおさずこの「技術」のおかげでしょう。「技術」があれば競合が存在しないことになり、下手な価格競争に巻き込まれることも無いわけです。

 

さて、本日は先般記載しましたコーヒー輸出のブログの結論を記載したいと思います。先般のブログでは「インドネシアではコーヒー輸出が解放されていない為、スマトラでは暴動寸前まで行った」、「結局は新しい法律でAEKI(インドネシアコーヒー輸出協会)に加入することなくコーヒーが輸出できるようになった」というところで終わっています。

 

当初依頼した「コーヒー輸出はOra Opo Opo(オラ・オポ・オポ=ジャワ語で“問題ない”の意味)」といっていた乙仲業者は結局あてにならず、別の乙仲業者にこの案件をお願いしようといろいろ手を尽くして対応可能な乙仲業者を探したのであります。

 

インドネシアで貿易業を行っていると、新規の案件をいただくケースが多くあります。ご存じの通りインドネシアの貿易に関する法律は頻繁に変わるため、貿易会社や乙仲業者もそれにすぐさま対応できる情報を持つ必要があります。

 

弊社は、こういった情報のほとんどを乙仲業者から入手しているのですが、やはり乙仲業者の良し悪しは弊社の業務にも深くかかわって参ります。今回のコーヒー生豆輸出の件は弊社がスマランにある別の乙仲業者を運よく見つけることが出来たため、無事にライセンスの取得が出来たというのが現状です。

 

実はここから後の話はかなりグレーな部分が多いため詳しくはお話しすることが難しいのですが、簡単に今回のコーヒー輸出騒動の結末を説明いたします。

 

旧法律は「コーヒー生豆を輸出する際にはAEKIの会員になる必要がある」というものでした。しかし、AEKIでは事実上会員は募集していません。大した矛盾です。もうご推察の通り、既存のコーヒー輸出業者が結託して新規の輸出者参入を妨げようとしていたのです。

 

先に出てきた横浜ライト工業のように技術的に何らかの優位性が既存の輸出業者にあるわけではなく、ただ単に既存権益の保護がこういった矛盾を生んでいました。新規の参入が無ければ価格競争も起こりません。横浜ライト工業のように技術的優位性がなくとも安穏としていることが出来るわけです。

 

これはインドネシアの法律が絡むことであるのは論を待ちません。法律を制定する人々、つまり政治家と輸出業者の結託とみて間違いはないでしょう。数十年前の日本でも同じような状況があったような記憶があります。

 

しかしこういった既得権益を取り除くことは容易ではありません。いろいろなしがらみから、なかなかこの矛盾を解決することは困難です。しかし新規参入を希望する企業からすると、明らかにこの法律はおかしいわけです。そこでスマトラで発生しそうになった暴動騒ぎが各地で起こる可能性があります。まるで地中深く打たれた杭を爆破で取り除こうとするように・・・・。

 

さすがのインドネシア政府もこれはまずいということになり、「AEKIに加入しなくても輸出は出来る」という新法律を制定したというのが真相のようです。

 

とはいえ、地中深く刺さった杭は簡単には抜けません。つまり法律上はNIK(一般的な輸出ライセンス)があれば誰でもコーヒー生豆は輸出できるということになりますが、ものすごい複雑な手続きが待っています。大まかに申し上げると、まず県の推薦状を持って州の商業省へ行き、さらにそこで推薦状を書いてもらい、ジャカルタへ行き、国のライセンスを得るというものです。

 

しかしながら県の商業省に行ったとしても誰も推薦状の書き方は知らないでしょう。いきなり我々が県の商業所に行ってもたらいまわしにされるだけです。こういった国の決まりごとが上から下に降りてくるのにはとても時間がかかります。しかも降りてくれば良いほうで、降りてこない可能性もあります。そうこうするうちに時間だけが経ち、結局「どうやって輸出ライセンスが下りるのだ?」という話になります。

 

つまり「ガラスの壁」が存在するわけです。実はこのガラスの壁を普通の壁にする方法があるのですが、それを知っている人を見つけるというのは運しかありません。インドネシアではライセンスの取得を専門にする業者というのがインターネットで検索すればいくつか出てきます。「コーヒー輸出ライセンス取得できます」という内容もうたっています。私たちもそういった業者に声をかけましたが、結局は「出来ない」もしくは問い合わせをした後音沙汰なしという状態でした。

 

ところが我々が依頼をしているこのスマランの乙仲業者というのは、実はここら辺をうまくハンドリングしてくれるのです。つまり乙仲業者でありながら、ライセンスの取得も任せることが出来るわけです。

 

そのかわり輸出業務自体もこの乙仲業者に任せる必要があり、弊社もかなりこの乙仲業者にはお世話になりましたので、浮気をするつもりもありません。

 

ではどうやってこの乙仲業者がライセンスを取っているのか?というと、実際それは我々にもわからないのです。あえてこの乙仲業者に詳細を聞くことも遠慮しています。

 

こういった貿易上の問題はいろいろな場面で遭遇しますが、いずれにしてもこのインドネシアの見えない壁の問題にはこれからもしばしば悩まされることになりそうです。

 

 

Pati中心部のPasarの午後の風景です。Pasarは午前中でほとんどが営業終了になります。

Samapi Jumpa Lagi,[full][/full]

Koki